今回は、映画「セッション」の感想を書こうと思います。ネタバレもありますのでご注意ください。
私がそれまで、セッションという言葉に持っていたイメージは、音楽を一緒に演奏して楽しむ微笑ましさというか、どちらかというと平和な印象のものでした。
互いが互いに理解を示しながら音楽が作られていく、ポジティブな高めあい、とかそうゆうイメージだったんです。
そして数年前、近所のTSUTAYAの入り口に、上映が終わりレンタルが始まる頃だったのでしょう、セッションのポスターが貼られていました。
黒バックに、鬼のような形相をしたスキンヘッドのおじさんと、ドラムを必死で叩いているような青年が印象的なポスター。そして際立つ「セッション」の文字。
あれ、セッションってこうゆうことなんだっけ?と違和感を感じたことを覚えています。
なんとなく、その当時は観ることを敬遠してしまっていました。
しかし、最近、某動画配信サービスで配信されていたのを見つけ、思い切って観ることにしたのですが、いざ観てみると、これがめちゃめちゃおもしろかったのです。
あらすじ
【完璧】を求めるレッスンは常軌を逸し、加速していく―。
名門音楽大学に入学したニーマン(マイルズ・テラー)はフレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされる。
ここで成功すれば偉大な音楽家になるという野心は叶ったも同然。
だが、待ち受けていたのは、天才を生み出すことに取りつかれたフレッチャーの常人には理解できない〈完璧〉を求める狂気のレッスンだった。浴びせられる罵声、仕掛けられる罠…。ニーマンの精神はじりじりと追い詰められていく。
恋人、家族、人生さえも投げ打ち、フレッチャーが目指す極みへと這い上がろうともがくニーマン。しかし…。公式HPより
地獄の入口
冒頭のシーンは、主人公のニーマンが1人、教室でドラムを練習しているシーンから始まります。ドラムロールを徐々にテンポを上げていくような叩き方をしているのですが、そこに、名教官にして鬼教官のフレッチャーがあらわれます。
このシーン、主人公と教官のただの出会いの場面ではなく、後述するラストシーンとうまくリンクしていて、よくできているなぁと感心されらました。
最初のシーンでは、教官フレッチャーが黙って帰ってしまい、主人公ニーマンは残念ながら認めてもらうことはできませんでした。
しかしその後、授業を見学にきたフレッチャーの前で、再度演奏をするチャンスがあり、そこでフレッチャーに、自分のバンドの練習に来るように告げられます。
有頂天になったニーマンは、気になっていた女の子をデートに誘い、公私ともに順調かに見えましたが、ここから地獄が始まるのです。
ひたすらにドス黒い日々
フレッチャーのバンドの練習は、ひたすら罵声、侮辱、暴力の嵐。しかも、最初は優しい素振りを見せて、あとからどん底に突き落とすような侮辱をかますという、落差を活かした高度な精神攻撃を披露します。
しかし、「自分はせっかく選ばれたのだから」という、プライドにも似た感情が、ニーマンに逃げることを許しませんでした。
このあともニーマンは、フレッチャーに散々な目に合わされながら、ドラムと向き合っていきますが、周りが見えなくなりすぎるあまりに交通事故に遭ってしまったのを機に、その生活に終止符を打つことになりました。
フレッチャーに対して怒り、憎しみを抱えたニーマンは、フレッチャーの常軌を逸した指導の実態を、学校側に告発します。
結果的に、ニーマンは学校を辞め、フレッチャーも学校から追放される形となり、2人の狂おしい師弟関係は終わったかに見えました。
最高のラストシーンへ
ところが、しばらく経ったある日、ふらっと通りかかったジャズバーで、ニーマンはフレッチャーを発見し、再開を果たします。
このときのフレッチャーは、非常に穏やかな表情になっていました。
その服装も、これまではずっと同じ、ブラックスーツにブラックTシャツという、ストイックさが強調されたような服装だったのが、初めてそれ以外の服装をしていて、かつての鬼教官の影は消えたように見えるのでした。
フレッチャーはニーマンに、本当の才能は、狂気ともいえる困難を乗り越えた先に開花すると信じて指導をしてきたと語ります。ニーマンもそれに対して思うところがあるようで、もしかしたら告発したことを少し悔いたかも知れません。
今度参加する予定のフェスに、自分のバンドのメンバーとして参加しないかというフレッチャー。
再びドラムが叩けること、フレッチャーとの間の確執がなくなったと感じたことで、ニーマンは参加を決意し、当日に向けて練習を重ねます。
そして迎えるフェス当日。そしてこれが、この映画の最高のラストシーンの舞台です。
久しぶりのステージ、楽しく演奏しようというニーマンの前に立つ、フレッチャーがひとこと。
「おれをナメるなよ」「告発したのはお前だろう」
すべてが狂い始める。
再開時の穏やかな表情も、いつもと違った服装も、全部フェイント。フレッチャーはフレッチャー。鬼は鬼。
ニーマンに渡した楽譜とは別の曲をバンドに指示し、演奏を始めます。
当然、練習していない曲でドラムが叩けるわけもなく、大恥をかくニーマン。それを見て満足そうなフレッチャー。
この映画の着地点も、完全に見失います。
そこからの、ニーマンのとった行動、演奏は、それまでのストーリーも、怒りも、憎しみも、苦しみも、全ての感情を大波のように飲み込んで、最高のクライマックスへと向かっていきます。
クライマックスには、ドラムロールを徐々にテンポを上げていくような叩き方を、ニーマンが演奏の中で行う場面があります。この演奏が、うまく冒頭のシーンとリンクされるのですが、同じなのはドラムの叩き方だけで、冒頭とは全く違う師弟関係が出来上がっていることが強調されるようでした。
そして最後は、思わず「ハハッ…」と笑ってしまうような完璧な終わり方で暗転、エンドロールへと移行します。ここはもう、鳥肌モノでした。
この最後の後味の良さにやられ、私はこのあと、たて続けに2回も連続で観賞してしまいました。笑
まとめ
狂気を感じさせる師弟関係を軸にしたストーリー。この作品で、各映画賞の助演男優賞を総ナメにした、フレッチャーを演じるJ.K.シモンズの名演技。
そして、最後に用意された、音楽というより、もはや格闘技のように演奏が繰り広げられるステージ。
どこをとっても計算され尽くした、完璧としか言いようがない仕上がりになっていて、全力で人に勧められる映画として、私の中で殿堂入りを果たす作品となりました。
まだ観ていない方も、もう観た方も、気が済むまで何度でも観ることをおすすめします。
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