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作品情報
あらすじ
主人公のライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)は、企業の人事に代わって、リストラ対象者に解雇を言い渡す仕事をしている。
クライアントはアメリカ中にいるので、出張で国中を飛び回る必要があり、出張日数は年間322日にものぼる。
そんな彼の生きがいは、史上7人目となる「1000万マイル達成」だった。
ライアンは、とにかく「背負わない」ことを信条としており、持っている荷物も最小限で、結婚や家族団らんといった人間関係も背負わないような、「身軽」な生き方をしている。
彼の一風変わった人生哲学を学びたいと、講演の依頼が来ることも度々あった。
そんな中、ライアンの価値観に少しずつ影響を与える、いくつかの出会いが起こる。
出張先のバーで出会ったアレックス(ヴェラ・ファーミガ)。
お互い出張族であることと、価値観が近いことから意気投合し、度々逢瀬を重ねるようになった。
また、大学を卒業したての新入社員、ナタリー(アナ・ケンドリック)がライアンの会社に入社。
彼女は、ビデオ通話を使うことで出張ナシで解雇宣告ができるシステムを提案してくるのだった。
経営者のクレイグ(ジェイソン・ベイトマン)は、画期的なシステムだとノリノリ。
しかしこのシステムが導入されれば、ライアンは出張に行く必要がなくなり、マイレージを貯めることもできなくなってしまう。
ライアンは、ナタリーはこの仕事をわかっていないと憤り、出張にナタリーを同行させて仕事の現場を見せることとなった。
マイレージを貯めたり、アレックスと気軽な関係を重ねながら、背負わない人生を謳歌するライアンの人生哲学に疑問をぶつけるナタリー。
なぜアレックスとまともな関係を築こうとしないのか。
聞く耳を持たないライアンだったが、ナタリーが交際中の彼氏にメールでサクッと別れを告げられたり、自分の妹の結婚式に参加する中で、人間関係に対する価値観が少しずつ揺らいでいく。
アレックスと、真面目に関係を築くのも悪くないのではないか。
ライアンが登壇する講演の中でも、最も大きな舞台での講演をしていたとき。
いつものように「背負わないで生きる人生」について語り始めるライアンだったが、彼の中では、すでにその哲学は崩れていた。
言葉に詰まり、講演を続けることができなくなってしまった彼は、黙って講演会場を飛び出し、アレックスの自宅へと飛ぶ。
しかしそこには、アレックスの家庭があった。
旦那、子どもたちの姿が目に飛び込み、何も言えずその場をあとにするライアン。
喪失感を抱えながら帰路につくフライトの最中、機内アナウンスで自分が1000万マイルを達成したことを知る。
念願の1000万マイル達成の瞬間だったが、もうそれでは喜べない自分がいた。
ナタリーが出張中に解雇した女性の一人が自殺をし、ショックを受けたナタリーも会社を去る。
人間関係をまたゼロに戻してしまったライアンは、ナタリーが過去に言った「それだけマイルを持っていたら、私なら空港に行って、行き先掲示板を見て、行きたいところへ行く」という言葉を思ってか、ふらりと空港へ現れる。
そしてラストシーンでライアンは、掲示板に目をやり、あてもなくどこかに飛び立っていくのだった。
感想
長年信じ続けたものの崩壊が表現されている
「マイレージ、マイライフ」の中では、一貫して、長年信じ続けたもの、変わらなかったものが崩壊する様が描かれています。
例えば、ライアンの仕事である、解雇。
リストラ宣告される登場人物たちは、リアクションはさまざまですが、長年勤めてきた会社という組織から切り離されることへの拒絶反応を示していました。
怒る人、泣く人、嫌みを言う人…。
相手のアイデンティティを「崩す」側だったライアンも、最後には「崩れる」側の立場になります。
ナタリーが彼氏にメールでサクッとフラれたり、妹の結婚相手のジムが、式直前にビビってしまったので説得をしたり、アレックスと関係を重ねて気づいたらのめり込んでいたり。
自分の周りで起こることに影響を受けて、最後には自分の人生哲学を信じることができなくなりました。
物理的なものであれ、精神的なものであれ、それが壊れてしまったときの人間が、いろいろなアプローチでよく描かれていたと思います。
原題「up in the air」の意味
アイデンティティが崩れたときの様はよく描かれている一方で、その後のアクションというのはことごとく描かれていなかったのが印象的でした。
解雇された人たちのその後、家庭があることがわかって崩れてしまったアレックスとの関係のその後、人生哲学を捨てたライアンがラストシーンで行き先掲示板を見つめたその後。
「マイレージ、マイライフ」の原題である「up in the air」には、「未解決、未決定、宙ぶらりん」といった意味があります。
まさに、この作品のオチ自体が(おそらくあえて)バシッと着地しておらず、宙ぶらりんなまま終わらせているところを見ると、ピッタリなタイトルなのかなと感じました。
登場人物の言ったことがブーメランのように返ってくるのが面白い
ライアンは、妹の結婚相手のジムが、式直前に結婚をためらったときに、名言を残します。
「振り返ってみろ、これまでの人生のハイライトとも言える瞬間、君は1人だったか?」
「…いや、違うな」
「夕べ結婚を前にして不安だったとき、1人だった?」
「ああ」
「寂しかっただろう、誰かにいてほしいんだ」
「たしかに」
「人生に副操縦士は必要だ」
この言葉は、ジムを説得するためにその場でとっさに考えた、得意のプレゼンテーションのはずですが、ライアン自身の価値観とは真逆のことを言っています。
これを口に出して言ったことが自分自身に跳ね返り、それまでの価値観を放棄するべきだという確信を得たのだと思います。
また、ナタリーは会社にビデオ会議で解雇するシステムを提案しましたが、そのナタリーはメールで彼氏にフラれてしまっています。
人に対してアドバイスをしたりするときは、感情抜きで合理的なアドバイスができたりするものですが、自分の身の回りこととなると、やはり感情が入ってしまい、なかなか思うようにはいかなかったりしますよね。
強く言った言葉ほど、ブーメランのように返ってきていてるのがおもしろいなと思いました。
まとめ
飛行機や空港、ミニマリストなど、個人的に馴染みのある要素が詰まった作品で楽しめました。
ラストシーンがハッキリとしない、「up in the air」な終わり方なので、観る方によっては賛否両論ありそうですが、私は嫌いじゃなかったです。
何より、ジョージ・クルーニーが演じるライアンが何だかんだでめちゃくちゃカッコいいので、その魅力だけでも観れてしまうような作品です(笑)
テンポも良く、コメディタッチで気軽に観られるので、興味のある方は是非観てみてください。
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